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農業分野
2016/07/08

小水力の水圧管に採用された圧力用高密度ポリエチレン管

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「世界農業遺産」に認定された宮崎県高千穂郷・椎葉山地域

昨年末、イタリアのローマで開かれた国連食糧農業機関の審査会で、宮崎県高千穂郷・椎葉山地域が「世界農業遺産」に認定された。高千穂町、日之影町、五ヶ瀬町、諸塚村、椎葉村の5町村からなるこの地域は、標高千m級の山々が連なる九州中央山地に囲まれた宮崎県北西部の中山間地。高地のため決して農業に適した環境とはいえないが、これまで森林からの恵みを巧みに活用して、複合的な農林業システムを構築してきた。

そんな地域の代表でもある諸塚村は、椎茸栽培が盛んで、全国有数の干し椎茸の産地になっている。また、典型的な中山間地では、お茶の栽培に加えて稲作も行われており、棚田があちこちに見られる。豊かな水資源があり、戦前より農業用水路を整備してきたため標高の高い地域でも農業を可能にしてきた。

豊富な水資源を活かした小水力発電が始まる

宮崎県では再生可能エネルギーを推進するため、このような豊かな水資源を活かした小水力発電の開発を行っている。諸塚村でも平成24年ごろから農業用水を利用した小水力発電の調査が行われ、県の補助事業として川の口地区に小水力発電設備を建設することが決まった。

建設の目的について諸塚村役場産業課の菊池浩一さんは、「発電した電気は九州電力に売電し、その利益を農業用施設等の維持管理費に活用す。さらに、村予算の農業振興や林業振興に当てて産業の振興や地域の活性化につなげたい」と語った。その効果は農林業従事者に留まらない。自然エネルギーを利用した小水力発電を導入し、「エコビレッジ諸塚村」をアピールすることで村外から見学者や観光客を呼び込み、村民との交流の機会を創出することも期待できる。

諸塚村の田園風景

諸塚村の田園風景

水圧管にクボタケミックスの圧力用高密度ポリエチレン管が採用

設備の概要は、標高約550mに配管されている農業用水管路から分水し、ヘッドタンクと呼ばれる水槽に集水し、一旦流量の変化を吸収する。そして水槽から水圧管で約50m下の発電所まで用水を送り、位置エ車を回転させ、ャフトにて発電機へと力を伝え発電する。発電に使用した用水は再び下流の農業用水管路に戻される。

この発電設備の水圧管に採用されたのが、クボタケミックスの圧力用高密度ポリエチレン管である。この管材には水道用のポリエチレン管よりも高い水圧で使用できる仕様があり、露出配管ができるようカーボンブラックを配合し、材質が黒いのが特徴だ。

設計を担当した九州工営株式会社、技術本部の高橋真一さんは、採用のポイントとして配管場所をあげた。「施工現場となる山の急斜面を見てすぐにポリエチレン管が浮かんだ。というのも、凸凹のある山の斜面に配管するため、ポリエチレン管ならその柔軟性で斜面の変化にも追従する。その結果、小角ベンドを削減して工事コストを抑えることができる」と語った。さらに、電気融着による接合は信頼性が高く、漏水のリスクを低減できることも利点として指摘した。 

の圧力用高密度ポリエチレン管
 

急斜面で行われたポリエチレン管の配管

諸塚村川の口地区の施工現場は、役場から川の口地区の集落へ通じる細い道路をどんどん登り、自動車で登れる限界の所にあった。私有林を伐採した急斜面が広がり、呼び径200の圧力用高密度ポリエチレン管の配管が進められていた。

工事を監督する株式会社興洋、工事部の安田勝彦さんによると施工を安全に行うため、ウインチでパイプを固定し、パイプの挿入幅の調整などは人力で行っているとのこと。傾斜角30度という険しい斜面での作業ではあるが、EF接合のスクレープ、清掃、クランプ固定、通電など決められた手順が確実に行われていた。ポリエチレン管114mの配管に約3日、その前の私有林の伐採や掘削と合わせて約10日間で作業が完了する。

ヘッドタンクの設置、水圧管の配管、発電所建家の建設までの工事が平成28年3月末までに行われた。これと平行してクロスフロー水車が製作されており、性能が確認されしだい発電所内に設置される。その後、水車および発電等、電気設備の工事が行われ、平成29年3月末までに発電を開始する予定になっている。

発電が始まると気になるのが、その経済性である。本発電施設は初期投資だけでなく、維持管理を水利組合に委託することで発電経費も抑える。供給発電量は約9・4kWhを想定しており、昼夜発電できることから約8年で初期投資が回収できる見込みである。初期投資の回収が終わる頃までには、小水力発電のモデルケースとして村外から多くの見学者が訪れ、自然エネルギーの輪が全国に広がることだろう。

建設中の発電所

建設中の発電所

ウインチを使ってパイプを固定

ウインチを使ってパイプを固定

ヘッドタンク