震災で優れた性能が確認されたマンホールトイレ
全世帯数の7割以上が半壊以上被害を受ける
東北、関東地方に未曾有の被害をもたらした東日本大震災。被災地の一つである宮城県東松島市は、日本三景松島がある松島町の北側に位置する海沿いの町。地震と津波によって、市街地の約6割が浸水し、全世帯数の7割以上で半壊以上の被害を受けた。5千4百戸以上の家屋が全壊・流失し、千人以上の尊い命が奪われた。沿岸部では震災から一年たった今も、住宅の基礎だけが残る土地や、被災した建物がそのまま残っている場所もある。
マンホールトイレにクボタケミックスのシステムが採用
東松島市では、宮城県沖地震を想定し、災害に強い街づくりに取り組んできた。下水道関連で対策の中心になったのが、主要管きょの耐震化とマンホールトイレの設置。マンホールトイレについては、平成16年の新潟県中越地震が発生した際、同市職員が応援で被災地を訪れ、実際にワンボックタイプの仮設トイレを使用し、問題を実感したのが始まり。「トイレで使用した紙が流せず、悪臭がしていました。また、高齢者の方が介助されながらトイレに行かれているのを見ました。衛生面や使い勝手が悪いとトイレの使用を控え、そのことによって体調を壊す方がいるということを身をもって知ることができました」とは、東松島市建設部下水道課の小田島毅さん。地元でも、大規模な地震に備えてトイレ問題を何とかしたいと市の上層部に働きかけ、マンホールトイレの採用が決まった。
まずマンホールトイレの配管方法、し尿の処理システムについて検討が行われ、し尿を貯める方法と、クボタケミックスが提案した災害トイレ配管システム(貯水槽など水源からの水でし尿を流し、公共下水道へと流す方法)が比較された。衛生面や運用のしやすさが評価され、クボタケミックスのシステムの採用が決まった。平成19年に下水道地震対策緊急設備事業の採択を受け、平成21年工事が行われた
2ヵ所の避難場で災害トイレ配管システムが活躍
事業開始当初、16カ所の指定避難所が選定され、順次マンホールトイレを設置することが計画された。平成21年度には矢本運動公園と大曲小学校の2カ所に設置され、翌22年度には矢本第一中学校、野蒜所学校、中沢浄化センターの3カ所に設置された。震災時には、市内の5カ所にマンホールトイレが設置されたところでは津波被害により備品等が流出するなど使用できなくなり、矢本第一中学校と中沢浄化センターの2カ所のみでマンホールトイレを使用することができた。
災害トイレ配管システムでは、下水管の上層部に汚水ますを設置し、貯水槽などの水を使ってマンホールまでし尿を流す。東松島市では、耐久性の高い貯水槽を建設し、トイレの使用毎に手押しポンプで水を流して使用できるようにした。ポンプは比較的小さな力で使用できたため、避難所でもうまく運用できた。心配された貯水量も設計では1週間程度としていたが、実際はそれ以上使用でき、マンホールトイレも20日間以上使用された。
また、マンホールトイレを機能させるためにの重要なポイントとして、下水処理場が稼働していることが挙げられる。今回の震災では、それまで使用していた石巻浄化センターが停電で使用できなくなり、公共下水道自体が使用できなくなった。そのため、マンホールトイレを使用する際にマンホールからし尿をバキュームカーで汲み上げ、自家発電で稼働できる中沢浄化センターへ運び処理を行った。
高齢者からの評価が高かったマンホールトイレ
利用者の感想として、とくに女性やお年寄りの評価がよく、その理由として入口に段差が無いため使いやすいこと、においもなく衛生的であることがあげられた。また、使用された矢本第一中学校と中沢浄化センターでは洋式と和式がほぼ同数設置されていたが、洋式の利用率が圧倒的に多いため、今後は洋式の割合を高める予定だ。さらに、季節や地形によって風が強い場所があるので、テントの強度にも再考の余地があるという。
今回の震災でマンホールトイレの評価が高まり、建設計画以外の地区でも住民からの要望があがっている。被害の激しい地区もあるため、今後のマンホールトイレの建設場所を再検討する予定である。
「今回使用した2カ所の施設は、平成22年12月に完成したばかり。完成当時、こんなのいつ使うのかなと話してたんですよ。それからわずか3か月後にあんな巨大地震がきたんですから。やっぱり災害はいつ来るかわからないので、できるだけ早く対策を立てないとだめです」と、小田島さん。「安全・安心なまちづくり」を担当の職員から市のトップまでが共有し、具体的な対策を実行し、そして実際の震災に対応した。この貴重な体験は他の自治体にもきっと参考になるはずである。
手押しポンプ
身障者用トイレ