【山梨県・西桂町】国産サーモンの陸上養殖に貢献する圧力用高密度ポリエチレンパイプ
目次
需要が高まる生食用サーモン
生食用サーモンとして人気の高いのが、ノルウェー産サーモンです。サーモンを養殖するには、摂氏12~15度の低水温が必須条件となり、また生食にするには餌や水質等を管理して養殖する必要があります。
ノルウェーは効率的な飼料の開発や大規模養殖でコストダウンした結果、ノルウェー産サーモンは世界の養殖サーモンの45%を占めるまでに拡大しました。
養殖サーモンの需要は世界的に増加傾向にあり、国内においても外食チェーン店での需要の高まりから、生食用サーモンの消費量が年々拡大しています。
しかし、ノルウェーから空輸するとなると、生産から消費者に渡るまで最低でも36時間はかかり鮮度や輸送エネルギーなど環境の観点から考えても、国内生産が望まれます。
サーモンの養殖には海面養殖と内水面養殖(陸上養殖)の2種類がありますが、海面養殖では国内の海水温が高いために年中生産できません。
年間を通して安定的にサーモンを生産するため、陸上養殖に名乗りを上げたのが、デジタル技術で豊富な実績を持つNECネッツエスアイ株式会社です。
同社は2019(令和元)年8月にNESIC陸上養殖株式会社を設立し、現在、水資源の豊富な山梨県南部都留郡西桂町において、陸上養殖場「富士・桂川ファクトリー」の建設を行っています。サケ・マス養殖では国内トップクラスの林養魚場株式会社の養殖技術を取り入れ、NECネッツエスアイ株式会社のICT/デジタル技術と融合させたサーモン養殖を行う予定です。
今回、富士・桂川ファクトリーの水槽まわりの配管にクボタケミックスの圧力用高密度ポリエチレンパイプが採用されということで、NESIC陸上養殖株式会社及び、工事を担当した株式会社大阪テクノクラートの関係者の方々にお話を伺いしました。
世界の注目が集まるRASを採用
養殖システムの概要についてNESIC陸上養殖株式会社、代表取締役社長の新野哲二郎さんは、「この富士・桂川ファクトリーでは、施設内で地下水をろ過しながら循環させてサーモンを育成する『循環ろ過養殖システム(Recirculating Aquaculture System:RAS)』を採用します。ただし、完全に循環するわけではなくて、新しい水を足しながら循環させます。その際、育成に関するファクターである水温、溶存酸素量、pH、照度、魚体長などを自動計測し、冷却器、酸素供給装置、pH調整装置、給餌機などを自動制御します。ここでNECネッツエスアイが得意とする情報通信技術と林養魚場が持つ養殖のノウハウを活用することで、高品質なサーモンを生産するとともに、管理負荷を軽減させて生産コストの低減を図ります」と説明しました。
なお、RASは、水を循環ろ過して水質のコントロールを行い、安定的・持続的に大型サーモンを生産することを目的としたシステムです。在来型に比べて魚が快適な生育環境を維持するため、生産効率に優れ、安定的に生産を行うことができるほか、環境負荷も少ないことから、今後さらに進む食料問題などに一石を投じると言われる次世代の持続可能な養殖方法として、世界的にも注目の新技術です。
富士・桂川ファクトリーの完成予想図
循環配管とフィッシュトランスポート配管に
圧力用高密度ポリエチレンパイプを採用
養殖場内には、サーモンを育てる飼育槽が12槽あり、サーモンの飼育状況に合わせて槽を使い分けます。各飼育槽で餌や排泄物などで水質が悪化しないようにろ過システムを設置して、水を循環させています。
今回、飼育槽とろ過システムと間の循環配管(往き)にクボタケミックスの圧力用高密度ポリエチレンパイプが採用されました。飼育槽の中心部から吸引した水を、ろ過システム手前のマスに配水し、ろ過した後、ポンプで各飼育槽に戻す配管です。
また、飼育状況に応じてサーモンを中間槽に移動させるフィッシュトランスポート配管にも圧力用高密度ポリエチレンパイプが採用されました。
採用の理由に関して、新野さんは、「圧力用高密度ポリエチレンパイプは、施工性が良く、長期間腐食しないこと、地震に関しても安心感があること、また、管の口径が大きくなるほどコスト面でのメリットがあると感じています」と語りました。
プレファブ加工製品が施工品質向上に貢献
2021(令和3)年7月より建屋とプラント設備の工事が始まり、約2ヶ月をかけて水槽まわりの配管工事が行われました。
工事を担当した株式会社大阪テクノクラート エンジニアリンググループの寺田康宏さんは圧力用高密度ポリエチレンパイプによる施工について、「基本的にブロックごとに工場施工した管や継手を施工現場に納品してもらって、位置決めが必要なところを調整しながら電気融着接合を行いました。現場施工を最小限にできるので、工期の短縮や施工品質の向上が期待できます。また、接合方法は、工場施工ではバット融着、現場施工では電気融着ですが、ともに施工方法が確立され、マニュアル通りにやれば同じ品質が期待でき、非常に信頼性が高いです。他の配管材のように、職人の熟練度に頼ることなくできるので、施工管理の面でもありがたいです」と評価しました。
電気融着接合のようす(左)、重機で直管の釣り下ろし(右)
プレファブ加工品による配管
サーモンの陸上養殖をフランチャイズ化
生サーモンの需要が国内外で増加する中、RASによるサーモンの陸上養殖は海面養殖での海洋汚染を防止でき、食料自給率の向上や地産地消にもつながるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献できる事業です。
そして、富士・桂川ファクトリーはサーモン陸上養殖の単独事業ではなく、この陸上養殖の仕組み(養殖場の建設・設備、養殖の運営、販路の確保など)をパッケージ化し、企業や自治体などに対してフランチャイズ方式で提供するモデル事業でもあります。
近い将来、圧力用高密度ポリエチレンパイプが採用された富士・桂川ファクトリー産の養殖サーモンが食卓に上ると同時に、ここで得られたノウハウが全国に広がり、いつでも、どこでも、美味しくて、環境にも良い、国内産生食用サーモンを食べることができる、そんな日が来ることが待ち遠しいです。